心海の砂煙

もう1個のほうが使えない時用

真実を照らす

「どうして、こうなった。」
どうして、こうにしかならなかった?

圧倒的な空虚感。今までで味わったことのないほどの敗北感。
きっと自分がどこかで間違ってしまったのだ、頼むからそう言ってくれ。
この人が狂ったことも、この人が俺の見ることが出来なかったところでこうも赤く染まって、冷たくなってしまったことも、全部全部、俺が間違ってしまったのだと言ってくれ。
頼むから、この人の生き方が、この人自身が間違っていたのだなんて言わないでくれ。
あまりにも哀れなこの人を。
これ以上否定しないでくれ。

雨。

「…なんで、こうなったんだよ。なあ。」


足音が聞こえた。たくさんの血を滲ませて、彼は俺の後で立ち止まる。
いつも気配の無い彼の存在を認識することは、この生きた人間の少ない終戦直後の土地においては容易であったとしか言いようがない。
それにしても、いつもより見つけやすかった。
まるで、人間になったみたいだ。
「…早く、殺せよ。」
自分でも馬鹿にしたくなるくらい、掠れた声だった。
「…裏切ったんだ。それが当然だ。俺は違反者なんだ。優等生なんかじゃなかった。大罪人と言うほどじゃあないかもしれないが、俺は間違いなく死ぬべくして死ぬ人間だ。
お前の得意分野だろ。早くしろよ。」
それはまるで、幼稚な言い訳のようだった。
「…早く。」
雨の中でも乾燥した目玉が彼を捉えたがらなかった。


「そんなこと言わないで。」


雨の中で妙に聞こえたその声は彼であって、
しかし、
紛れもない人間の声だった。


「そんなに、悲しいことを言わないで。」
「自分のせいにばかりしないで。」
「もっと、望んで。」

差し伸べられた手は妙に綺麗で、

見上げた瞳が、それは美しく

慈愛に満ちていて。

「帰ろう。実。」

捨てたと思い込んでばかり居たそれは、あっけなく降り注がれて。
気付けば弱くなった雨足と反比例するように、顔に浴びた血を洗い流して涙は溢れていた。