心海の砂煙

もう1個のほうが使えない時用

答えないでね。

いつ自分は消えてしまうだろう。そう考え始めてからもうずいぶんな時が過ぎた。
案外自分は特別で、死んでからでも消えはしないのかもしれないと、馬鹿みたいな期待をした。
「でも多分いつかは」
そう、きっと終わりは訪れる。そうでなかったら気が狂ってしまう。
終わりは、訪れるのだ。
「…じゃあ、また後悔すんのかなあ」
即ち後悔とは恋心のこと。
あの子に対して好きだよの一言も言えなかったこと。
自分が消えるか彼女が死ぬか、どっちが早くてもその後悔は繰り返される。
死んだ直後はそれで随分苦しんだものだった。
気分が欝になって膝を抱えてもこの不確かな体は日光を遮らない。
「…おい、どうかしたのか、夢兎」
不意に声をかけられて思わず固まる。
噂もしていないが、思考の中心にあった彼女が都合よく現れれば驚くというものだ。
落ち着いて、俺は笑って顔を上げた。
「御法ちゃんじゃん!久しぶりだなー」
そしてハッとした。いつも変わらない彼女の表情が少し変わって見えたから。
…もしかしたらただの光の加減だったかもしれない。彼女はまだ、生きているから。
「最近見なかったから成仏でもしたのかと思ったぞ」
彼女が言う。
ああ。
そうか。
他人は俺以上に、俺の消える時期なんてわからないのか。
「それこないだ稜くんに同じこと言われた!ごめんな〜」
「稜?」
「おれの憑いてる子!」
「…可哀想だなそいつ。」
「酷くね!?」
もしも彼女にも俺に伝えることがあったら。
もしもあの子のように好意を持ってくれていたら。
明確に俺が死んだってわかってたあの子より、苦しませるのかもしれない。
ああ、自分はどうやっても好きな子を幸せにできないのか。

それなら、自己満足でいいから、伝えさせてくれませんか。

あの子にできなかったこと、君にしてもいいですか。

…君を繋ぎ止めてもいいですか。

「御法ちゃん、また会えてよかった!」

手をつなぐフリだけでも、していいですか。