心海の砂煙

もう1個のほうが使えない時用

幸せの使者

真っ赤な果実は朽ち果て、手の中で色褪せていく。
命が消えていく。そんな時間を眺めるのが大嫌いだった。
「…美味しくないの。」
ぽつり、呟いた欠片は静かに地面へと落ちていった。

「はい!口開けて!」
「ん、」
初めて彼から食べ物をもらってから、自分でものを食べたくなくなった。
彼から与えられるすべては生きていて、みずみずしくて、美しかった。
幸せだなって、そう思う。
こんな、万物を呪う存在が、幸せを感じてていいのかと不安になるが、彼はきっと他人に幸せを運ぶ質なのだろう。
「おいしい?」
そう笑う彼の顔が眩しくて。
久しく慈しみを覚えるようだった。

「ばかみたい。所詮恨みしかこの心にはないのに。」

そう嘲笑う声を隠して君に言うの。

「また、ディオのくれる林檎が食べたいの。」