心海の砂煙

もう1個のほうが使えない時用

未来の話(死ネタ?注意)

「また来るね、実。」
「ああ。」
そう言って昔俺を助けた友人は病室を出て行った。彼も昔に比べて、随分人間らしくなったと思う。
おそらく死んだ恋人の生を信じて疑わず、仕事や考え事で行き詰まり、疲れると彼は決まって俺のところへ答えを求めに来ていた。
そんな俺も、昔に比べたら丸くなったと思う。
…もしかしたら本来の性格に戻ったのかも。
あの可哀想な、孤独を選んだ従兄に付けられた枷も、左耳ごと無くし、左目の視力も失ったが従兄と違って俺は生きていた。
生かされたのだ。見知らぬ人からも、友人からも。
色んな人を裏切ってきた俺を、迎えに来てくれたあの馬鹿な友人には感謝すべきだろう。
とにかく俺は生きているのだ。

そう。まだ生きている。

あいつと違って。

「…鏡夜」
ぽつりと恋人だった人の名前を呟く。
戦場で見た、眠ったまま戦い、眠りから目を覚ますことの出来なかった恋人の姿。
俺にもっと力があれば、どうにかできたのか。なんて野暮なことは考えるのをやめたばかりだった。
「…情けねえなあ」
片膝を立てて病院の真っ白な布団に顔を埋める。
もうすっかり、情緒不安定も嘘つきも卒業したと思っていたのだけれど。

「まだ、好きなんだ。鏡夜、」

人間が死人について最初に忘れるのは声。
本当なんだなと思った。

「会って、呼んでくれないか。」