心海の砂煙

もう1個のほうが使えない時用

そして、愛を知る


昔、唯一ひとりだけ好きになれた女の子が居た。優しくて、お日様のような子だったなんていうのは洒落っけがないかもしれないが。

事は単純明快なのだ。
俺が正しい愛し方を知らないだけ。

俺を愛してくれた父親は俺を躾てはくれたが、叱ってはくれなかった。
俺を愛してくれた母親は喝を入れてくれたが、慰めてはくれなかった。
強く生きることが正しかった。忠実に、尊敬の念を抱いて、真っ直ぐ前を向いて歩くのが理想だった。
画鋲の道を、真っ赤に染めながら走っていた。

ある時、唯一ひとりだけ友人だと言える子に言われた。
「なんだか、辛そうだね。生き方。」
彼女はひとつだけそっと画鋲を拾ってくれた。
初めてだった。躾や言いつけ以外の考え方が存在するのだと知った。

この時、唯一ひとりだけ。
たった1人だけ特別な人が居た。
ほかの誰とも違って、大切にしたいのだけれど、傍にいて欲しいのだけれど、どうしてもその方法がわからない。
愛してるってどう表現すればいいんだっけ?
躾けるのと、殴るのと、それから、抱くのと?あとなにかあったっけ。でも違うんだ。
どれも俺はあの子にそんなことしたくない。
そもそも愛って
なんだったっけ。

「きーくん!」

A.笑顔がどうにも安心するその感情

「…あほらし。」